リクルートテクノロジーズ メンバーズブログ  会場から感じた、EdTech“日本と海外の違い”–「The Bett Show 2020」現地レポート

会場から感じた、EdTech“日本と海外の違い”–「The Bett Show 2020」現地レポート

リクルートの新技術開拓部門「アドバンスドテクノロジーラボ」の塩澤です。

教育を巡るさまざまな課題をテクノロジーによって解決へとつなげる「EdTech(エドテック)」は、近年日本のテクノロジー業界でも注目が高まっています。また、教育現場でもプログラミング教育の必修化などを背景に「教育×テクノロジー」への関心が高まっており、今後の動向が注目されています。

また、昨今の新型コロナウィルスによる影響で、日本でもオンライン授業を本格的に開始している学校が出てきました。ここへきて、ITを活用した教育現場の改革を身近に感じている方が多いのではないかと推測します。

そうしたEdTechの世界最大級の国際コンベンションである「The Bett Show(以下、BETT SHOW)」が、今年1月にイギリス・ロンドンにて開催されました。私も視察の機会に恵まれたため、世界各国の企業・政府が推進しているEdTechの最新動向や、そこから見えてきた日本のEdTechの今後の可能性などをレポートしたいと思います。長文になりますので、お時間のある時に読んでいただけたら幸いです。

※編集注記:本稿では、GDPRを考慮し人物の写真にぼかしを入れています。

 

本レポートで取り上げている内容

「いま、世界が教育のデジタル変革に本気になっている」
「BETT SHOWで印象的だった技術テーマ」
「ロンドンに世界から146か国以上のEdTech企業や団体が参加」
「ステージでの講演から感じた日本の教育現場の課題」
「巨大なロボットも出現!?各国のパビリオン」
「GoogleやMicrosoft、主要ハードウェアメーカーも教育業界に注力」
「VR、AR、3Dアニメーション・・・工夫を凝らしたデジタル教材が続々登場」
「子どもたちの好奇心を刺激する「ロボティクス×教育」 への高い可能性」
「『黒板書き写し』がなくなる!?『スマートホワイトボード』が教育のスタイルを大きく変える」
「MISで多忙な教員の業務負担を軽減し、子どもや家庭へのきめ細かな対応を実現」
「EdTechの時代ならではの革新的な学校設備・備品たち」
「スタートアップ等のブース」
「イベントから見えてきた、EdTechの可能性と日本の伸びしろ」
「全体を通して」

●いま、世界が教育のデジタル変革に本気になっている

私が「EdTech」と「BETT SHOW」に興味を持った背景は、2017年に遡ります。リクルートが展開する学習アプリ『スタディサプリ』のAI技術開発に携わったことで、「教育×テクノロジー」の可能性に強い関心を抱くようになりました。例えば、いま教育を巡る問題として、裕福で子どもに投資できる資金力があるほど子どもに良い教育を受けさせることができ、学力が上がる傾向が示唆されるという研究結果が存在しています。このように、経済力によって学力・学歴に差が生まれてしまう現状をテクノロジーによって是正できないか。これが、私がEdTechを勉強したいと考えたきっかけです。

BETT SHOWでは各国がブースを出して自国の取り組みや企業の紹介をしていましたが、中でも印象的なのは、BETT SHOWの開催地であるイギリスのブースでした。日本の文部科学省にあたるイギリス教育省がブースを展開し、国として教育のデジタル化の支援に力を入れている印象で、通信網やパソコンなどデバイスといったデジタル教育環境の整備に税金を投入しているほか、EdTech推進のカギを握っている教育者のITリテラシーの向上にも、国を挙げて取り組んでいるようでした。あわせて環境、教員、教材といった全方位に力を入れることでEdTechを推進するケーススタディを蓄積し、その成功モデルをグローバルに展開しようとしているのではないか、という印象も受けました。


イギリス教育省のブース

なぜ世界中がEdTechの推進に躍起になっているのか。それは、会場内のアリーナで行われた教育関係者やEdTech企業の講演から分かってきました。いま世界中では、ビッグデータ、AI、ロボティクスなどのテクノロジーによってデジタルトランスフォーメーションが進み、私たちの働き方や仕事のあり方、世の中に提供すべき価値観などが変わりつつあります。このような社会の中で、今の子どもたちが大人になったときにどう生きていけばいいのか。そのために必要なスキルは何かと考えることを、重要な課題に挙げていました。世界では、テクノロジーによって子どもたちの学びをどう変革するかを、官民一体となって考えているのです。

●BETT SHOWで印象的だった技術テーマ

日本のEdTechでは主に子どもたちが学習で使用する教材を中心としてテクノロジーの研究・開発が進んでいますが、BETT SHOWの会場で非常に印象的だったのは、教員の業務や学校運営のデジタル変革についての議論が驚くほど進んでいたことです。例えば、“忙しすぎる”といわれる学校の先生の労働負荷を軽減するためのマネジメントソリューションについては多くの出展がありました。

教材だけでなく、会場から感じた「教育現場全体をデジタルで変えていこう」という空気は、日本を含む先進国がEdTechで進むべき方向性を示してくれたような気がしました。中でも印象的に思えたテーマを、4つ挙げさせていただきます。

ひとつは、ここは日本も力を入れているところですが、教材=教育コンテンツのデジタル化です。タブレット端末を活用した教科書のデジタル化、アニメーション動画や3Dコンテンツなどを使ったコンテンツの拡充は、子どもたちの学習理解をより深めてくれることになるでしょう。高等教育におけるVRの活用も可能性を感じました。

2点目は、こうした教材を使った子どもたちの学びを先生が管理する、マネジメントソリューションの導入です。教材がデジタル化すると、教員は学習状況をAIで分析・評価して効率的に把握することができるようになります。また、子どもたちの習熟度によって教育カリキュラムを最適化することも可能になるほか、ネットデバイスの活用により学校と家庭のコミュニケーションも円滑化することでしょう。

そして3点目は、デジタルホワイトボード(スマートホワイトボード)の導入です。


SAMSUNGが出展していたスマートホワイトボード

教員が授業中に書く黒板の内容をそのままデジタル化したり、教材となる資料を画面に呼び出したりできるデジタルホワイトボードは、授業のあり方を大きく変えます。これまでの授業では、子どもたちは黒板に書かれた内容をノートに書き写すことが重要でした。しかし、黒板そのものがデジタル化されて子どもたちに共有されることにより、子どもたちは「書き写し」という作業から解放されます。授業中は“考えてアウトプットする”という本質的な学びに集中できるようになるのです。

最後に4点目は、幼い年代からSTEAM教育へ慣れ親しむための取り組みです。将来求められるといわれるスキルは、ますますデジタルと親和性が高くなってきていますが、これは世界的に起こっている流れです。そうした潮流を見据え、幼少期からプログラミングやロボットなどの仕組みを理解することは、今後の高等教育で求められるであろう、AIやロボットに関するスキルの下地となるはずです。

このように、日本で拡大しつつある“教材のデジタル化”はEdTechのひとつの側面にすぎず、真のEdTechは、子どもと教員のコミュニケーション、子どもたちの学習成果の管理、教材のマネジメントなどさまざまな要素が掛け合わされることで実現するのではないかと強く感じました。

前置きが長くなりましたが、本編では上記の観点を中心に、「BETT SHOW」の内容の具体的な紹介をさせていただきます。

●ロンドンに世界から146か国以上のEdTech企業や団体が参加


この「BETT SHOW」は、800を超える大手企業、103のスタートアップ、146か国3万4,000人以上が参加する※という非常に大きなイベント。会場となったロンドン市内のコンベンションセンター「EXCEL LONDON」には、テクノロジー企業や教育関係者とおぼしき多くの人が来場していました。
※2019年実績


会場入り口には6月にロンドンで開催予定だった「Formula E」の展示も

「BETT SHOW」の会場は、テーマによって大きく6つに分類されています。「Learning Tech Zone」は、子どもたちに提供するデジタル教材、Eラーニングのテクノロジーを中心したブースで、一方の「Teaching Tech Zone」は、評価サービス、学習管理システム、通信教育、達成度モニタリング、VLE(Virtual Learning Environment)、MLE(Managed Learning Environment)といった、先生を支援する技術・製品を中心に展示するゾーン。そして、「Equipment & Hardware Zone」は、教育用のさまざまなデバイスを展示するゾーンで、スクリーン、デジタルホワイトボード、3Dプリンターといったハードウェアが展示されていました。

印象的だったのは、学校運営や教育マネジメントを支援するためのソリューションを「Management Solutions Zone」として独立させ展開していたこと。教育に特化した製品・サービスだけでなく、ビジネスでも使用しているデータ管理とストレージ、出席管理、訪問者管理、管理情報システム(MIS)、セキュリティとリスク管理、通信ソリューション、タレントマネジメントといったソリューションを、教育分野にどう活用していくかなどを展示していました。

これに加えて、「Global Showcase Zone」では、世界中の政府系教育セクターや教育系の団体などが出展。19か国が参加し、自国の教育モデルなどを海外に輸出するためのPRをしていたほか、さまざまなサービスベンダーが教育、生涯学習に関する製品・サービスを展示して商談や取引ができる「Education Show @ Bett」も活況でした。

●ステージでの講演から感じた日本の教育現場の課題

会場内のアリーナやシアターステージでは、教育現場の方々や政府関係者、EdTech企業などによる講演も行われていました。

例えば、教師の育成や専門的な知識習得、生涯教育の支援などを行うイギリス政府出資の財団Education and Training Foundationの講演「How to Accelerate Your Digital Learning Strategy」では、IT・デジタルスキルの習得を希望する教員が、自分のトレーニング状況や弱点の発見などを把握しながらトレーニングを進めることができる無料のオンラインツール「Enhance Digital Teaching Platform」を紹介。同財団は、オックスフォード大学と連携してリーダーの育成にも力を入れており、校長は企業のCEOと同等のマネジメント能力を持てるよう、財務担当は企業のCFOと同等の役割を担えるようにトレーニングしているとのことです。

日本の教育現場においても、教員の方々は大学を卒業してからも引き続き、教育カリキュラムの変更や教材のデジタル化、小学校ならばプログラミング教育や英語教育の必修化など、新しい学びに適応していく必要があるでしょう。しかし、日々の業務に追われ、限られた時間で新しい取り組みに対応しなければならない教員の方々にとって、自力でこうした変化に対応することは簡単なことではないはずです。教育業界全体で、さまざまな課題に対して、テクノロジーを効果的に活用していく方向にシフトする必要があるのではないでしょうか。

イギリスが特に力を入れていると感じたのは、STEAM教育に対応できる教員のデジタルスキル向上のためにさまざまなオンラインツールが提供され、実際に役立てているという点。こうしたソリューションは、日本の教育現場でも役に立つのではないかと強く感じました。


イギリス政府出資の財団Education and Training Foundationの講演

一方、日本でもプログラミング教育の教材などを展開するLEGO Educationも講演を実施。「Ready for the AI revolution? Why confidence in STEAM learning is key to career opportunities in the age of automation」と題し、最高責任者であるJacob Kragh氏が登壇していました。

そこでは、下記のように力強いメッセージが披露されているのが印象的でした。

「昨今、世界中でロボットやAIにより、産業や仕事に大きな変化が起こる中で、これからの子ども達の学習、スキルも変化させなければならない。産業は自動化され、ロボット工学やコンピュータサイエンスが非常な重要なスキルになってくる。LEGO Educationは、STEAM教材によるハンズオンラーニングを提供していきながら、子ども達の将来に向けたスキル習得を支援していく」

LEGOを楽しみながら、AIの仕組みやプログラミングのスキルを学ぶことができれば、子どもたちにとっては非常に有益だろうと感じました。


LEGO Educationの講演

●巨大なロボットも出現!?各国のパビリオン

会場内では世界各国の政府系機関が出展し、自国のEdTechに対する取り組みの紹介や、さまざまな企業の展示を行っていました。日本からはJETRO(日本貿易振興機構)がパビリオンを展開していましたが、目立っていたのは中東各国の出展でした。特にサウジアラビアのブースでは、大型ロボットが会場内で動き回り、音楽と会話で周囲を楽しませていました。


日本のJETROパビリオン

また先に記した通り開催地イギリスの取り組みは印象的で、イギリス教育省のパビリオンでは、国として教育のデジタル化の支援に力を入れている印象を強く受けました。通信網やパソコンなどのデバイスといったデジタル教育環境の整備に税金を投入しているほか、EdTech推進のカギを握っている教育者のITリテラシーの向上にも、国を挙げて取り組んでいるようでした。


イギリス教育省のパビリオン

会場内で大きなロボットを動かしていたサウジアラビアのブースは、動画でご覧ください。まるで映画「トランスフォーマー」に出てくるような未来的な風貌に、会場に集まった人たちも驚き、多くの人がカメラを向けていました。

●GoogleやMicrosoft、主要ハードウェアメーカーも教育業界に注力

GoogleやMicrosoftが近年教育分野に注力しているのを、皆さんはご存じでしょうか?会場内では、Google、Microsoft、Adobe、HPといったグローバル展開している大手IT企業のブースがひときわ目立っていました。いくつかご紹介しましょう。

<Google>
Googleの教育機関向けソリューションを紹介するブースでは、教育機関への導入が拡大しているノートパソコン「Google Chromebook」と、連携可能な各種サードベンダーのハードウェア、ソフトウェアの紹介がされており、あわせてGoogleドキュメントとスマートホワイトボードの連携ソリューションなども展示されていました。

Googleは生徒、教師、学校、保護者を支援するツール群をすでに取り揃えており、既に全世界で1億人以上が利用しているのだそうです。Googleは教員の方々を中心にソフトウェアをレクチャーする機会を設けた上で、その後はオンラインチュートリアルなどで自主的に学んだ上、利用してもらっているとのこと。また、コンピュータサイエンスの学習をサポートするための教材も無償提供しているのが印象的でした。

<Adobe>
クリエイティブソフトウェアを展開するAdobeは、教員が授業で利用する動画や動画付き教材を、簡単に編集するためのツール提供や支援を行っています。会場では、実際に専門学校で生徒に教えている教員がブースに立ち、普段どのように動画を編集しているのかなどを説明してくれました。また、生徒もAdobeのツールを活用してクリエイティブ制作をしているとのことです。

彼らが主に利用しているのは、「Premiere Rush」と「Spark」。Premiere Proは操作をマスターするのに時間がかかりますが、Premiere Rushは簡単に使用できるので、教員でも学生でも、直感的に操作して動画の編集をすることが可能です。Sparkに関しては、動画を組み込んだプレゼンテーション資料を作る際などに、同じく簡単な操作でリッチなクリエイティブを実現できます。テンプレートも豊富に用意されているので、デザインに悩む必要もないということでした。アイデアとコンテンツさえ手元にあれば、簡単に動画付き教材の作成ができるのが特長で、ブースではこれらのツールの使い方を学ぶ教員向けのハンズオンも行われていました。

<HP(Hewlett Packard)>
パソコン・サーバーなどを展開するHPは、STEAM、VR、マインクラフトなど、子どもたちが興味を持ちながら学習できるデジタル教材を紹介していました。コンテンツはHPのパートナー企業が開発し、同社の端末を通じて提供しています。HPの2階建てバスでイギリス中の学校を回り、製品のレクチャーや体験の機会を提供しているのだそうです。こうしたHPの戦略は、学生時代からHPのハードウェアやソリューションを利用して慣れ親しんでもらい、HPの認知度を教育現場に広めたい、学生たちが大人になってからもHPの製品を使ってほしいというブランディングの側面もあるようです。

また、会場内で展開していたVEX STEAM教材によるコーディング、ロボット、IOTを学ぶデモ実演では、ブロックでできたビーグルをGUIベースのプログラミングで制御し、取り付けられたセンサーを活用してラインに沿って走らせたり、障害物を避けたりしたりしていました。レゴブロックを使える子どもであれば利用可能で、キットの価格は200ポンド程度。コーディングソフトは無償で提供され、既に世界中で数百個のキットを販売しているそうです。

<Lenovo>
Lenovoのブースはとても大きく、HPと同じく教育向けソリューションをLenovoのハードウェア上で動作させる実演が中心。例えば、VR教材やNvidiaのペイントアートAIである「GauGAN」、R-CNNの「Object Detection」を実演したりしていました。非常にコンパクトながらAIをも動かせるパワフルなGPUワークステーションも展示してあり、思わず今すぐ買って帰りたいと思うような機材も展示されていました。

そうした展示の中で特に興味深かったのは、AIを活用した11~19歳向けのエンジニア育成のためのプロジェクトです。自分でデザインしたレーシングカーをモデリングするという内容で、Lenovoがスポンサーをしているモータースポーツ「Formula 1」の公式プログラムになっています。

このプログラムでは、学生が自分の車をCADでベースデザインし、AIに最適なマシンデザインへモデファイさせ、ボディを3Dプリンターで出力し、走れる状態にして大会で競い合います。AIによるマシンデザインには「Generative Design」を使い、レスポンス、パラメータ調整、気流の流れを考慮して、AIから最適なボディデザインを数種類出力します。この「Generative Design」で使用されるパラメータは、本物のF-1世界選手権のレギュレーション値が採用されているのだそうです。

学生たちは、自分のデータセットを用いてAIから導き出された最適値を把握することで、理想のボディを設計するためのプロセスを学んでいきます。しかし優秀な学生はAIに頼りっきりではなく、ベースデザインを深く考えるようになり、優れたボディを自ら開発できるケースもあるのだそうです。また、どのようにしてボディデザインを考えたのかを参加者の前でプレゼンさせる機会もあり、エンジニアとしての考え方を身につけ、成功している学生も出てきているということでした。私自身も中学生時代からF-1を熱心に観ていた世代なので、こんな教材が学生時代にあったら夢中になっていただろうと思い、熱心に担当者の話を聞いてしまいました。

<Microsoft>
「BETT SHOW」の会場内で最大規模を誇っていたのが、Microsoftのブースです。こちらも、Microsoft SurfaceやOfficeプロダクトとのサードパーティーの製品を組み合わせ、教育向けソリューションを構成していました。STEAM教材、リッチコンテンツVR、教育向けマインクラフト等の展示やショートセミナーが開催されていました。

会場で気になったのが、昨年の初夏に発表され、Windows 10が搭載された最新版の「Kano PC」です。ニュースでは知っていましたが、実物を見るのは初めてでした。

この「Kano PC」は、まずStoryBook(PC組み立て説明書)を参照してPCを組み立てながら、コンピュータの構成を勉強するところから始めます。そして、専用ソフトウェアを起動させて、ストレージ、バイナリー、メモリー、フラッシュストレージの役割や仕組みを説明してくれる映像を見ながらコンピュータを組み立て、その構造を勉強することができます。実際に触ってみると、バイナリデータとemojiの関係を教えてくれたり、ブロックベースのコーディングでPCに命令ができたりするチュートリアルがありました。PCの仕組みを理解したら、次は教育版マインクラフトで遊ぶこともできますし、Officeもプリインストール済みですので、幅広い用途で利用できます。

この「Kano PC」は、ディスプレイの後ろがシースルーケースとなりハードの中が可視化され、キーボード面はオレンジでとてもおしゃれ。ただ残念ながら教育機関向けなので、店頭では購入できないそうです。4GBメモリストレージ、64GBeMMC仕様で、価格は299ポンドと大変リーズナブルでした。

また、こちらのブースではローバーロボットのSTEAM教材「RVR STEAM」も展示。Raspberry Piをメインボードとし、カメラと赤外線センサー、ソーラー充電の部品を取り付けたローバーが、惑星の土壌Ph調査をするというデモンストレーションを行っていました。ローバーの動きを制御するプログラミングツールは、Microsoftの全てのプロダクトに対応しているといいます。小学生でも簡単なプログラムで制御できるのが特長で、2019年に米国で販売を開始して以来、既に数千個が売れているとのことです。

●VR、AR、3Dアニメーション・・・工夫を凝らしたデジタル教材が続々登場

大手IT企業のブースではパソコンなどのハードウェアやプラットフォームとなるソフトウェアの活用が目立ちましたが、デジタル教材のブースでは、従来の物理的な本や紙の教材ではなく、タブレットやパソコン上で閲覧、学習できるデジタルコンテンツや、VRで目の前で立体的に確認できるデジタル教材などが盛り上がっていました。

<Avantis Systems>
ひときわ大きく盛り上がっていたのが、Avantis Systemsが展開していた「ClassVR」という教育向けのVRヘッドセット+VRライブラリの展示です。大人から子どもまで、宇宙探索をテーマにしたVRを体験していました。

Avantis Systems 社のVRライブラリ内には、500を超える空間セットが用意されており、「ClassVR」にダウンロードすることでコンテンツの追加が可能とのこと。米国の国立水族館や動物園や火山などの自然環境を体験できる空間や、交通ルールを学習する空間などもあるのだとか。ゴーグルとQRコードキューブがセットになっていて、キューブにはその空間内に存在する3Dオブジェクトを投影する事ができます。例えば心臓のQRコードを使うと、360度角度を変えながら、動く心臓を見ることができます。

<Bedrock Vocabulary>
Bedrock Vocabularyは、イギリスのBedrock Learningという企業が提供する、クラウド型の英単語学習ソフトです。日本にも類似した英単語学習アプリがあると思いますが、このBedrock Vocabularyは、普段の生活から学校で必要とする単語をレベルに応じてカテゴライズしているのが特長。出題された単語に関連したイメージも表示されるので、例えば実際に見たことがない植物であっても、写真とともに記憶に残り、学習の効果が高まります。

私も学生時代に、前置詞「in」「on」「at」の違いを視覚的なイメージで覚えた記憶があります。文字だけの学習だけではなく、右脳に刺激を与えるような勉強は学習効果を高めることが期待できそうです。

また、類義語や反対語等も提示され一緒に勉強できるので、効率が良いそうです。

学生向けのログイン画面と親・教員向けのログイン画面があり、学生はログインして勉強し、親や教員はその進捗状況をモニタリングすることができます。個々の家庭で契約するケースもあれば、学校単位で契約するケースもあるようです。

<entab>
AR、VRを活用したインタラクティブ教材コンテンツを展示していたのが、インドのentabです。会場で体験できたのは、動く心臓のVR。手元のコントローラを用いて、VR内のマークに向かってトリガーを引くと、心臓の各部位が反応する仕掛けでした。

<General Onologic Soft>
General Onologic Softは、教育用書籍を出版しているアメリカの会社です。より子どもが学習しやすい、記憶に残るコンテンツを提供するため、書籍を電子化しタブレット端末などで閲覧できるプラットフォーム開発を行っています。

デジタルコンテンツでは、記事の中に出てくるキーワードに関連したBBCやナショナルジオグラフィックなどの動画や、イメージアニメーションを表示させることができます。教育向けのコンテンツアセットを大量に保有しており、展示ブースにも数多くの書籍が陳列されていました。ブースでは、電子コンテンツプラットフォームをタブレットで閲覧できたり、開発中のロボット型の閲覧端末が展示されていました。

<MOZAIK education>
3D、アニメーション、ビデオ動画、オーディオといった、スマートホワイトボード向けのリッチコンテンツのライブラリを提供しているのが、MOZAIK educationです。

コンテンツの数は数千にもおよび、子どもだけでなく大人でも楽しめます。立体映像で視覚と聴覚にも刺激を与えながら学習できるので、理解度が高まるのではないでしょうか。学生はパソコンなどからもコンテンツにアクセスできるので、自宅での学習にも利用できます。プラットフォームの対応言語は、現在日本語を含む33言語。世界中のマーケットを視野に入れているようです。コンテンツ量も豊富で、かつ専門的な内容も含まれており、非常に興味を持ちました。「mozaik3D」をパソコンにインストールすると、お試し版のコンテンツが利用できます。興味があればぜひ、試してみてください。

■サンプル3D:地球と月の形成
https://www.mozaweb.com/ja/Extra-3D-DiQiu_Yue_XingCheng-209803

<Practically Science>
ブース紹介の最後となるのが、アニメーション、VRやARを活用した教育コンテンツを制作しているインド3rdFlix社の「Practically Science」です。数学や物理教材をアニメーションやVRで分かりやすく学べるのが特長で、会場では三角形の角度の求め方や、物の落下と力学を解説したり、人間の骨の構造をARで理解するコンテンツのデモを行ったりしていました。

医学部で勉強するような体の内部構造の教材や、難解な物理計算など、若干日本のカリキュラムと差があるように思いましたが、彼らは教材をインドのローカル水準ではなく、グローバルのレベルで制作しているということでした。

●子どもたちの好奇心を刺激する「ロボティクス×教育」への高い可能性

会場の多くのブースでは、プログラミング学習に最適なロボットが展示されており、世界的なプログラミング教育の推進に向けた熱量の高さを感じることができました。

教育におけるロボティクスの活用は日本ではまだ馴染みがありませんが、プログラミングの結果がロボットにフィードバックされて実際に動くというのは、子どもたちの好奇心を刺激して学びのモチベーションが高まるという効果が期待できます。その点において、個人的には教育とロボティクスの相性が非常に良いのではないかと考えています。将来ロボットを生み出したり、ロボットをさまざまな産業に役立てられる人材を育てるという意味でも、子どものときからロボットに触れて、思い描いたことを現実にするためのプロセスを知ることは意味があります。日本での導入には教育現場のITリテラシーといったハードルもありますが、コンピュータの中だけで完結しない、現実世界で体験することができるデジタル技術は今後ますます重要になるのではないでしょうか。

<iRobot>
日本でもお掃除ロボットでおなじみのiRobotが出展していました。同社も教育分野でのロボットの活用に熱心に取り組んでいます。

会場に展示されていたのは、手のひらよりも少し大きめなお掃除ロボット型の機械。ぱっと見たときはお掃除をさせるためのロボットだと思っていましたが、このロボットは予想に反し、走行しながらお絵かきをすることができるのが大きな特長です。

機能としてはドローイング、音楽再生、色を見分けるセンシング、周囲の明るさを認識し照明を光らせる、周囲の音を認識するといったもの。動作を制御するプログラミングはタブレットなどのアプリで行うことが可能です。最も簡単な「レベル1モード」はScratchのようなインターフェイスで、既に命令が書き込まれたブロックを組み合わせてロボットを制御します。その上の「レベル2モード」は、Scratch同様、一つひとつの制御をブロックで設計します。最後の「レベル3モード」は、Pythonで自由にプログラムコードを入力できるモードです。利用者のレベルにあわせて使い分けられるので、初等教育から高等教育まで活用できるのではないでしょうか。

対象年齢は6歳以上で、価格は199ポンド(SDK込)。米国ではすでに数千個を出荷しているそうですが、日本でも現在販売代理店と交渉中とのこと。1年以内に日本国内でリリースさせたいとのことでした。

<DOBOT(中国:Shenzhen Yuejiang Technology)>
Shenzhen Yuejiang Technologyは、日本でも事業を展開しているロボットアームの会社です。今回会場で見ることができたのは、恐らく日本では未発売の教育機関向けロボットアーム「DOBOT Magician Lite」。ロボット制御のプログラミングでは、色を識別させてオブジェクトを仕分けるコーディングが可能です。コーディングは、Scratch GUIをベースとしたソフトウェアで行うことができ、プログラムはPythonで実行されるとのこと。小学校でも利用できるほか、職業学校などでも利用されているのだそうです。また、ロボットを利用した世界大会も開催しています。

<LEGO Education>
前述の通りアリーナで講演もしていた、LEGO Educationの展示も見ることができました。会場では、旧来のレゴブロックから最新のSTEAM用レゴまで、幅広く展示されていました。STEAM用のレゴはブロックを組み立てて、GUIベースのプログラミングで作ったレゴを制御できます。また会場では、大人も子どもも集まり巨大なレゴウォールを作っていました。

<MiRo-E>
プログラミング可能な30cmほどのウサギ型ロボット「MiRo」は、目にカメラを搭載して物体を認識したり、耳についた指向性マイクが人の声の方向を認識したりします。鼻にはソナーセンサー、体にはクリフセンサーを搭載しており、障害物や段差も検知してくれます。何らかの認識をすると、LEDを光らせたり、体を触ってあげると喜んでしっぽを立てたりして、とてもかわいらしいです。

MiRoのプログラミング制御は、PythonやC++をベースにしたScratch風のGUIで行うことができ、またソフトバンクロボティクスの「Pepper」と同じくシミュレーターが利用できるので、バーチャル空間内での動作確認が可能です。価格は1体2,450ポンド。残念ながら日本ではまだ発売されていませんが日本上陸を期待したい製品です。

<PASCO>
学校、大学向けに物理や化学の実験教材を提供するイギリスの企業「PASCO」は、ロンドンの巨大観覧車「ロンドンアイ」の模型をScratchベースのGUIでプログラミンというするというデモを展開。また、扇風機の風を利用して移動する車のシミュレーターなどが展示されていました。

●「黒板書き写し」がなくなる!?「スマートホワイトボード」が教育のスタイルを大きく変える

ハードウェアコーナーでは、ディスプレイメーカーを中心とした、非常に多くのインタラクティブディスプレイやデジタルホワイトボードが展示されていました。各社の力の入れようから、我々の学生時代と比べると勉強方法も変わりつつあることを、実感することができました。

<BENQ>
日本でもディスプレイメーカーとして有名なBENQは、教育機関や企業にスマートホワイトボードを提供しており、クラウドを経由して4者間でホワイトボードを共有することが可能な製品を展示していました。このスマートホワイトボードは20ポイントのマルチタッチに対応しており、指やタッチペンで自由に文字や絵を描くことができたり、遠隔地のクラスルームからのリモート操作や協力マルチタッチも可能。また写真の読み込みや貼り付け、音声の記録も可能です。AndroidのPlayストアを搭載しているため、Androidアプリを使用することもできます。そしてホワイトボードの内容はPDFなどで保存することができ、学生に配布することも簡単です。すでにロンドンの小学校から大学までが導入しており、約2500台を教育機関に販売しているのだそうです。

<Prowise>
Prowiseはスマートホワイトボードを開発する会社で、学校専用のタッチスクリーン、ソフトウェアを展示していました。同社の75インチタッチスクリーンのスマートホワイトボードはクラウドに接続できるのが特長で、ホワイトボードの内容をスマホやタブレットなどあらゆるデバイスに共有することができます。また、オンライン授業にも対応しており、授業や課題を配信して学生から回答や質問を受けるといったインタラクティブな活用が可能です。加えて、Microsoft App storeから好きなAppsをインストールしたり、Skypeを使ってカンファレンストークをしたりすることもできます。

<SinoEview Technology>
SinoEview Technologyが展示していたのは、従来の黒板とスマートホワイトボードを組み合わせたハイブリッドな製品。従来型のチョークで書く黒板の四方に、赤外線センサーが付いており、黒板に書いた文字や図形が、接続したスマートホワイトボードに転送されるという珍しい仕組みを採用しています。

そのほか、欧州、米国を拠点としたスマートホワイトボードメーカーCLEVER TOUCH、「SAMSUNG F」というスマートホワイトボードの展示をしていたSAMSUNG、日本でも馴染みのあるViewSonicやHaierなどがスマートホワイトボードを展示していました。日本ではまだ馴染みの薄いデジタルホワイトボードですが、海外では数多くのソリューションが誕生しています。日本でも普及の拡大を期待したいところです。

●MISで多忙な教員の業務負担を軽減し、子どもや家庭へのきめ細かな対応を実現

学校・教員向けのブースでは、MIS(Management Information System)を中心とした学校と教師の作業負荷軽減やインフラ、セキュリティなどの展示が数多く展開されていました。

<Bromcom>
Bromcomが展示していた小中学校向けのMISソリューションでは、生徒の学習成果を評価するアセスメント、授業の履修や出席の状況確認、生徒や保護者とのコミュニケーション、保護者会、課外活動、教室や備品の予約といったスケジュール管理、いじめや事故といった学校や家庭におけるインシデントへの対応、学校の予算や財務の管理などさまざまな機能を提供していました。すでにイギリス国内では、900校近くで導入しているのだそうです。

ご存じかもしれませんが、イギリスの有名校ではボーディングスクール(寄宿制)を採用するところがあり、エリート教育を受けるため保護者のもとを離れて暮らす学生も多い状況です。親からすると、離れて暮らす子どもの様子が知りたくなるわけです。学校側も保護者に対して定期的に報告レポートを作成しなければならず、その作業負荷をMISが下げてくれるというメリットもあります。こういった背景を知っていると、MISのコミュニケーション機能について理解しやすいのではないかと思います。

<Frog Education>
Frog Educationは、グローバルで24カ国、1400万人以上、イギリス国内でも約500校にMISを提供しています。このツールの特長は、学校と家庭のコミュニケーション機能です。学校の管理者は、WYSIWYGで簡単にWebサイトの管理を行うことができ、タイムリーな情報発信も可能。また教員は、生徒にオンラインで宿題を送ることができ、進捗やスコアの把握もできます。例えばReadingの宿題を出した際には、何ページまでを閲覧しているかをシステム側で把握しているので、モニタモニタリングが可能なのです。

そして、どの生徒が宿題や提出物を出していないかを教員が把握できるだけでなく、全ての父兄が自分の子どもの状況を把握できるのも大きな特長です。また、教員と父兄はオンライン上でメッセージのやり取りをすることも可能で、教員から父兄に対してオンラインで書類等への電子署名を求めることもできます。そして教員は、クラスの様子を写真で撮影して共有スペースにアップすると、授業の様子などを父兄に共有することも可能。子どもが描いた絵をアップして父兄に見せてあげるなどの使い方もできます。

<Edval Timetables>
Edval Timetables は、AIを利用して時間割作成の支援を行うオーストラリアの企業です。このツールを利用すると、年間の授業計画をAIが瞬時のうちに組み立ててくれます。教員は、AIが提示した計画の微調整をするだけでカリキュラム作成ができ、作業負担を軽減してくれます。

加えて、このツールはタレントマネジメントの機能も兼ね備えています。例えば急に数学の担当教員が病欠になったとしても、校内にいる別の教員のスキルやスケジュールをAIが把握しているため、すぐに代理の教員をアサインというという機能も備えているのです。授業の進捗率もシステム側が把握しているので、その日のスタートはどこからになるかも把握できます。

さらに、生徒が希望の条件を入力することで、その条件にあった時間割表をAIが自動で設計してくれるという機能もついています。海外では、セカンダリースクール以降は自分で受講したい科目や先生を選んで年間計画を立てる必要があるため、生徒側の負荷をも軽減できるそうです。

<RM Education>
RM Educationは、幼稚園から大学まで幅広く製品を提供するイギリスの教育大手企業。EdTechにも強く、教育現場で必要となる家具、知育玩具、STEAM商材、文具から、試験プラットフォームやアセスメントツールに至るまでさまざまな内容の製品・サービスを7000校程度に提供しています。

学校へのデジタルインフラやMISの提供事例は2400校を超え、教育現場のデジタル化による学校側の負荷軽減とコスト削減、インフラのセキュリティ対策、Googleやマイクロソフトなどが提供する多くのサードパーティーツールやスマートホワイトボードとの連携によるクラスワークの構築などを実現しています。MISでは、個人・グループ・クラスの評価、学生の出席率と行動履歴の把握、子どもの長所・短所などのデータ分析、経理支援などの機能を提供しています。

<Learnetic>
ポーランドの企業Learneticは、生徒と教員のコミュニケーションをサポートするアダプティブラーニングツール「mCourser」と、デジタル教材を簡単に高機能に作成するオーサリングツール「mAuthor」を組み合わせた教育ソリューションを30カ国以上に提供しています。教員はmAuthorで作成したデジタル教材を生徒の端末に配信することができ、生徒の学習の進捗率をすぐに把握できます。

また、生徒がどの問題で間違ったか、時間を費やしてしまっているか、何度同じ問題をやり直して目標に達しているかなどを問題ごとにAIが分析し、教員にフィードバックします。特異な特徴がある生徒がいる場合は、その生徒の学習状況を注意深く見守ることが可能です。

<Lexplore Analytics>
Lexplore Analyticsは、リーディングアセスメント(読解能力の評価)をAIで実現している非常にユニークなソリューション企業です。

そのプロダクトでは文章を読むスピードと目の動き(アイトラッキングを利用)をAIが分析し、読むスキル、理解力の結果が視覚化されます。その結果、2分間読書をするだけで、子どものリーディングレベルを判定できるのです。ツールのダッシュボード上では、プロットされた円の大きさと位置によって、レベルが判定されます。

例えばテンポ良く上手に読んでいる場合は、小さな円で軌跡がきれいに描画されますが、読むのに時間がかかっている単語の周りには、大きな円が描画されます。視覚化された結果を見て、どのような単語で詰まったか、見返して学習をし直すことでリーディングスキルが上達していく仕組みです。ダッシュボードでは、生徒ごとの結果の確認や改善方針が提示されるほか、教師への教え方のレコメンドなども表示されます。

さらに、自校のスコアと他校のスコアの比較をする機能もあります。現在は英語、ドイツ語、フランス語、ポルトガル語に対応しており、アラビア語や日本語への対応も検討中とのことです。担当者によると、障がいを持った子どもの読み方は独特の癖が出るといいます。リーディングレベルの評価は、子どもの読み方の訓練だけではなく、子どもが持つ障がいを早期発見するのにも役立っているのだそうです。

<LGfL(THE LONDON GRID FOR LEARNING)>
LGfLは、無償もしくは低価格で、学校にブロードバンドインフラやデジタルツールを提供する組織です。元々はイギリス政府のプログラムとして誕生し、日本でいう教育委員会にあたる組織が運営を行っています。具体的には、学校のコスト削減、子どもたちの安全確保、不平等の是正を実現するため、通信環境の整備、ネット上におけるいじめ防止の取り組み、学校のデジタルセキュリティ、教育現場へのIT支援などを提供しています。

担当者の話によると、学校にはほぼ無償でブロードバンド環境を提供しており、加えて学校でデジタルツールを利用するための設備、セキュリティ対策、端末管理機能、リモートアクセス、AdobeやMicrosoftの製品などを非常に低価格で提供しているそうです。ロンドンの学校での導入実績は、3500校以上。約30万人の教員と約120万人の子どもたちが利用しているといいます。私立の学校も含めて、全ての学校がこのサービスの恩恵を受けられるのだそうで、デジタル化によって教育の不平等を解消するためにも素晴らしい取り組みだと感じました。

<IP NRG Solutions>
IP NRG Solutionsは、学校のセキュリティ対策ソリューションを提供する企業です。具体的には、管理システムに訪問者を登録してQRコードやRFIDを配布し行う入出許可の実施、顔認識技術や映像解析技術を活用した不審者の検知、ビデオカメラで敷地内を監視して侵入禁止エリアに人物を発見した場合にはアラートを出す不正侵入検知、学校上空にドローンが飛来した場合に検知する不審ドローン検知などを提供しています。不審者や不審物の検知に、画像認識技術やAIを活用している点が印象的でした。

<LastPass>
日本でもおなじみのパスワード管理ツール「LastPass」もブースを出していました。同社は学校のセキュリティ向けにLastPassを提供しており、特に大学のシステムで活用されています。また、学生達にセキュリティの重要性や知識をつけてもらうという、利益目的だけではなく啓蒙活動としての役割も担っているそうです。

<Lightspeed Systems>
米国の企業Lightspeed Systemsは、校内のデジタルツールの監視ソリューションを展示していました。学校内で多数のデジタル端末を使用している状況では、校内の端末で不適切な利用がされないように管理する必要があります。このソリューションでは、学校内のインターネットや端末の利用状況、アクセスフィルターの管理などが可能。現在、35カ国で2800校に導入され、1500万人の学生に提供されているのだそうです。

 

●EdTechの時代ならではの革新的な学校設備・備品たち

まずは、会場のブース内で気になった学校用の備品・設備などをご紹介します。

<Nuancehear>
Nuancehearは、教員の声や周りの生徒の発言を聴きやすくするための生徒向け指向性マイクヘッドホンシステムです。タッチ式の丸いデバイスの中には8個のマイクが内蔵されており、発話者の声や音をクリアに聴くことができます。聞きたい方向以外の音は10db程度まで下げて、ノイズを除去する仕組みです。もちろん、自分でタッチしなくても、発話者が話しながら動いている場合には声の大きな発話者の方向を追ってくれるので、オートモードでもその声を逃しません。また、ふたつの方向を選ぶことも可能なので、教員の声と生徒の発表の声を同時に聞きやすくするといった対応をすることもできます。

授業中に周りのおしゃべりが気になる際には、このマイクとヘッドホンを付けることによって、授業に集中というくなるというメリットがあります。こうした機能は、注意欠如・多動性障害(ADHD)の方の学習をサポートするデバイスとしても役に立つのではないでしょうか。

<Reader Pen>
Reader Penは、紙に記載された文字をスキャンして、瞬時に読み上げてくれるデバイスです。
単語や文章を単純に発音するだけではなく、内蔵された辞書によって単語の意味を聴くことも可能。また、スキャンした文字列を内蔵メモリに保存して、USB経由でパソコンに転送することもできます。小学生から大人の学習にまで利用できますし、失読症の方の学習サポートにも役立つのだそうです。

<JALINGA VIDEO STUDIO>
JALINGA VIDEO STUDIOは、とても革新的な授業が配信できるリアルタイムオーバーレイの授業配信スタジオセットです。

授業をする教員の目の前には透明の「黒板」が用意されており、教員はそこに文字や図形を描いたり、写真を貼り付けたり、アニメーションを呼び出したりし、それぞれのオブジェクトを好きな位置に手で動かしたり消したりもできます。例えるなら、映画『マイノリティレポート』で主人公が空中でコンピュータの操作を行っていたような感覚で、プレゼンテーションができます。とても未来的なプレゼンテーションセットです。

ただ、教員が目の前の透明な板に文字を書くと、生徒には反転された文字として見えるはずです。そこで、このJALINGA VIDEO STUDIOでは書かれた文字やオブジェクトをビデオカメラでリアルタイムに鏡面反転させたうえ、映像として配信します。一般的にこれと同じことをしようとすると、動画撮影後に手作業で頑張って空中にオブジェクトを挿入したり、移動させたり消したりと、相当大変な作業をしていたと思います。しかしこのスタジオを使えば、リアルタイムに自分の思うままに、空中に好きなオブジェクトを呼び出すことが可能となるのです。

授業を配信する教員だけではなく、YouTuberの番組制作や企業のプレゼンテーションでこのソリューションを使うと、とても斬新な印象を与えるのではないかと感じました。

<Giant iTab>
Giant iTabは、スマホやタブレットを巨大なタブレットに接続してユーザビリティを高める製品です。タブレットのスペックとしては4K 55インチまで用意されているそうです。学校や病院、空港、銀行店頭に設置しているそうで、幅広い年齢層の方にも操作しやすいインターフェースを提供できます。

<LapSafe>
いわゆる充電ロッカーです。スマホ用の充電ロッカーは日本でも見かけますが、こちらはノートパソコン、タブレット、スマホなどのデバイスに対応しています。充電が100%になると自動で電源供給を止めてくれるため、端末を使用しない授業中に長時間入れておいても安心です。欧米の学校ひとり、学生1人に対して1台のデバイスを利用する時代になっているので、今後はこのような設備も需要が高まるのではないかと思います。

<PAROTEC>
こちらは、タブレット専用のUSB充電ステーションボックスです。教師側が生徒に配布するタブレットを充電しながら収納しておくのに便利です。

●スタートアップ等のブース

会場ではスタートアップ系を中心とした小規模なブースエリアが活況だったほか、子どもにとっては学習と同じくらい重要なオーラルケアを啓発するブース、学生によるeスポーツのブース、ITを活用した最新の校内放送(スクールラジオ)スタジオの展示、幼児用の知育玩具に関するブースなども展開されていました。

●イベントから見えてきた、EdTechの可能性と日本の伸びしろ

今回、イギリスを中心に世界各国の方々とお話をさせていただき、欧米諸国の現状と目指している未来の教育現場の方向性が、鮮明に見えてきました。一方で、残念ながら現時点で日本のEdTechは欧米に比べて遅れていることを痛感させられたことも認めなくてはなりません。EdTechの発展に向けては、私たち民間企業の技術開発部門だけでなく、行政、教育現場が一体となって推進していく必要性を大きく感じました。世界では、行政EdTechの推進を強く主導している実態があります。日本も、こうしたグローバルで拡大するEdTechの潮流に乗り遅れることなく、教育×テクノロジーの可能性を追求していく必要があるだろうただしています。

ただし、日本のテクノロジー企業に対しては、グローバルのEdTech市場に挑戦できるポテンシャルも強く感じています。今回BETT SHOWでは世界中のテクノロジー企業の最新製品に触れてきましたが、EdTech市場そのものはまだ始まったばかりと言えます。教育に対する考え方は国や地域によって異なるものの、その中核となる技術は世界共通で使えるものばかりです。その点、高い技術力を誇る日本企業はグローバル市場に参入できる余地が十分にあると言えるのではないでしょうか。加えて、グローバルで議論されている教育を巡るさまざまな課題に対し、テクノロジーで挑戦するというアプローチも重要だと感じています。

●全体を通して

BETT SHOWを初めて視察し、最新のEdTechを観て、体験して、多くの人とネットワーキングすることで、日本と世界にどのような違いがあるのかを感じることができました。テクノロジーを巡るグローバルの潮流は、実際にこうした場に行かなければ分からないこともあります。今回の「BETT SHOW」は、EdTechの最新動向を知る上でとても有意義なイベントであり、私自身が“日本の教育現場に何か貢献できることがないか”と改めて感じる大きなきっかけとなりました。今後も継続的にウォッチしていきたいと考えています。

ここまで長いレポートをお読みいただき、ありがとうございました。